
猛暑日が続いていた頃のある日、ゴルフヴァリアントにお乗りのお客様から、エンジンを停止しても車内を涼しい状態にしたいとのご相談を受けました。
ワンちゃんと一緒にお出かけの際に、エンジンを停止しても車内を涼しい状態にしてあげたい、とのご要望。
夜釣りをする海沿いやキャンプ場等、周りが静かな場所では長時間のアイドリングも出来ないですし、出かけ先でワンちゃんと一緒に行けない場所にどうしても寄りたい時もありますよね…。
サウナ状態の車内でワンちゃんに留守番させられない…との事で、キャンピングカー等の実績をHPでご覧いただき、ご来店頂きました。
まず最初に、完成写真を基に説明させて頂きますが、今回の解決案としては、ポータブルクーラーをラゲッジスペースに常設させて頂きました。
しかし、実現までには紆余曲折あり、お客様と共に2人3脚で完成させたカスタム事例となりましたのでご紹介させて頂きます。
当初、ポータブルクーラー以外にRV用12Vエアコン等も検討したのですが、予備電源システム等もイチから設置する事を考えた結果、電源からクーラーまでを同一メーカーで揃えるメリットを考慮し、EcoFlow社製のポータブル電源「DELTA2 MAX」、ポータブルクーラー「WAVE3」を選定させて頂きました。
メーカーを統一する事により、機器の接続や専用アプリを1つに集約できる等のユーティリティ面でのメリットが大きいので、極力そろえる事をお勧めさせて頂いております。
日本は勿論、海外でも前例の中々無いであろう、ステーションワゴンへのポータブルクーラーの常設…。
更にこのクーラーを駆動させる電源と充電装置の設置…。 我々RIPとしても初めての試みです。
ご存知の方も居られるかもしれませんが、このポータブルクーラーは室内で使用する場合、「吸排気」を行う必要があります。
(密閉室内から効率よく熱気を吸い出す「吸気」と、クーラー内の熱交換器から出た「熱」を排出する「排気」と、が必要)
他ショップへ相談へ行かれた際には、リアドアのウィンドウを少し開け、その隙間に吸排気ダクトを付ける方法を提案されたそうですが、(最もポピュラーな方法で、本体の取説にもこの方法が記載されています)扉の開閉の度にダクトを取り外さないといけない事や、ラゲッジスペースだけでなく、キャビンにまでダクトが敷設されることによる圧迫感等の問題から、難色を示しておられた為、異なるアプローチでご提案させて頂きました。
最初に考案した方法は、リアクォーターガラスを取り外し、カーボンパネルをワンオフ作成し、そこにダクトを設けるというもの。
しかし、試作品を装着してを試運転する中で、簡単にアクセスできる場所ゆえ、第三者が悪戯等で吸気口へゴミなどを入れられてしまうとポータブルクーラーが故障、停止してしまうことが判明。
このシステムではお客様の求める使い方が出来ないと判断し、振り出しに戻る事になりました…。
上記の試運転の結果から、簡単に第三者がアクセスできない場所且つ、極力目立たない場所を模索した結果、ラケッジスペースに設けられた純正の排気用ベントに目をつけました。
このベントはリアバンパー内側にあるため、外部から簡単にアクセスできず、お洒落な欧州ステーションワゴンのシルエットを崩すこともありません。
早速、当該部品の3Dスキャンを行い、ピッタリとはまるダクトを3D CADにて作成し、3Dプリンターにて出力します。
作成後、高温の排気に曝される内側は耐熱ケプラー繊維を張り込み、表面は耐熱樹脂をコーティングしました。
この製法はレース車両に使用される部品の開発経験からフィードバックした製法です。
レース参戦を通じ、色々な経験を積むことでお客様へ技術としてご提案し、喜んで頂ける事はモノづくりをするエンジニアとしては非常に嬉しい瞬間です。
作成した部品を車両側のベントの上に貼付け、ポータブルクーラー用排気ダクトを接続、車載工具入れとのクリアランスも考慮して設計した為、問題無く収納する事が出来ました。
この辺をサラッと作りこめる所は3D CADで設計する大きな利点です。
余談ですが最終版を作成に至るまで、部材の厚みや、ダクト取付時の曲げ半径を確認する為の捨てモデルも作成しております。
この試行錯誤が製品のクオリティをもう一段引き上げます。
また、当初の計画にはありませんでしたが、試運転を通して、結構な量のドレン水を排出する事が判明。
そこで、煩わしい排水作業を無くす為、追加で車外へドレン水を自動排水できる様に改造させて頂きました。
冒頭にも触れましたが、ポータブルエアコンは排気と同じく吸気も重要なため、トランクルームのトリムを加工し吸気用のベントを設置させて頂きました。
そして、排気用ベントには異物の侵入を防ぐ専用メッシュを3Dプリンターにて作成、取付させて頂きました。
また今回の大きなカスタムとして、トランクルーム内へポータブルクーラーを稼働させるポータプル電源「DELTA2 MAX」を設置するのですが、このポータブル電源は結構な容量があり、12Vシガーソケット等から充電した場合、残量ゼロからのフル充電では12時間以上かかってしまいます…。
そこで、専用の高効率充電器も併せて設置させて頂きました。
この充電器、12Vを昇圧させて効率的に充電するかなり良くできた機械です。
充電器の電源はエンジンルーム内バッテリーより取り出す必要があるのですが、VWに限らず一部の外車はバッテリーの車両側端子のボルトが外れない構造となっており、充電器の端子が接続できません…。
そこで、バッテリー側端子を加工して取付させて頂きました。
更に今回、狭くなったラゲッジスペースを補う為、ルーフボックスとウィングバーもご用命頂きました。
ゴルフヴァリアントオールテレーンにTHULEの「Force XT XL」は本当に良く似合います。
全ての部品の取付が完了したら、単体での試運転を行い、ベストと考えられる配置にクーラーも設置させて頂き、実試運転とデータ採取を実施。
これなら問題無い、と思える能力を確認した上で、最後にお客様へ何点か注意事項をお伝えさせて頂き納車させて頂きました。
初めての取り組みで、回り道をしてしまった事もあり、長期間にわたりお車を預かりしてしまい、お客様にはご不便をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした…。
そんな中、お客様から納車後は週末の旅行やワンちゃんとの生活がより便利になったと、有難くも嬉しいご報告を頂ききました。 我々としても新しい事に挑戦した甲斐がありました。
ポータブルクーラー設置は勿論、愛車で「こんな事がやってみたい」「こんな風にできないかな?」など、クルマに関するご希望、ご要望がありましたら、お気軽にお問合せ下さい。
鈑金塗装、整備、車両販売、部品設計など、全てをワンストップで行うRIPグループだからこそ出来るご提案をさせて頂きます。
長くなりましたが最後までお読み頂きありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう!
お仕事をいただき、ありがとうございました。